「弟くーん」朗らかな声の主はマンダリン。最近はライフォス・クライメイトにあてがわれた部屋に居間の如く入り浸っている。
「びっくりするから開ける前になんか言ってください、あとマンダリンさんの弟じゃないです」
「でもみんなクライメイト(弟)って呼んでるし」
「呼びにくいのはわかりますけど……なんか他のにしてください、くすぐったい……って何度か言った気がするんですが」
「えっと……ねぼすけちゃんはなんて呼んでたっけ……そう、フォース!」
SwordWorld2.5:Key No.20c[10]+?? → 2D:[6,3]=9 → 7+?? → ?? 必中の一矢が少年の腿をかすめる。
「痛ってぇ!?こ、これフォースじゃないだろ!それにフォースじゃなくてフォスだ!いやマジで撃つのかよ!?魔法ダメージですらないし、ちょ、ちょっと」
「全問正解!よくできました!」
「全問、え何……?あ、あの、用があるならさっさと済ませてください、痛た……」
「?用がないから来たんだよ」
「そうでしたね、あぁ……」回復魔法は効いたものの、既に精神的疲労が著しい。
「んー、でもちょっとした提案ならあるかな?ずっと引きこもってたらもやしになっちゃうよ」
「いやいや、捕虜なんだから外に出られないのは当然では……」
「もう船の一員なんだから、他の人たちとも仲良くしないと」
「押さないでください自分で歩けますから」
「……じゃあ歩けない子を押してあげないとね?」
◆◆◆◆◆
メイニ王国、昼下がり。フォスはおよそ10日ぶりに日の光を浴びていた。
「えっと、大丈夫ですか」少年は所在なげに少女に話しかける。
「どれのことかしら」
「いや、どれというわけではなく」
「ふふ、大丈夫よ」
車椅子の主はサラ。その瞳は閉じられているが、少年のほうを見やって笑った。
「ブロンパイでございます」暖かいパイ生地の上にソフトクリームの乗っかった、一見奇妙な組み合わせではあるが、甘みの方向性が合致しており、美味。サラの評価にフォスも同意した。
「……あの、俺、怖くないですか」
「急にどうしたの」
「うーんと、だって俺ら、サラさんを狙って襲撃したわけで」
「だってそのとき私は眠ってたんですもの。話には聞いてますけど、実感としては、ね?」
「あー、そうでしたね……」
「貴方は、私に何を求めるのかしら?」
「へ、あえ!?ももも求め、あっ いや、俺達は別に、そういう指示があったからで、実際顔を知ったのは船に来てからですし」
「ふぅん、なるほどね……」
少女はおもむろに少年へ顔を寄せる。突然のアプローチに少年は耳まで赤く染まり、かちかちに固まった。そうしてしばらくにらめっこした後、
「いただき」サラはフォスのひげについたクリームを指で掬い取った。ドワーフの少年は頭から湯気をのぼらせながらくらくらしている。
「……少しからかいすぎたかしら」サラは久々の平穏な生活を満喫していた。
◆◆◆◆◆
「また船長さんに叱られた……」
「船長が叱らなかったら俺が叱ってた」
風花号ラウンジ。マンダリンの愚痴を聞く役割は、大抵ソノヴァに回ってくる。「どうして」通詞のイヤリングを耳に当てながら、マンダリンは今日も他人には度し難い感情をぶちまける。
「どうしてはこっちの台詞だ」ソノヴァはイヤリングに怒鳴り込む。「捕虜と重要参考人を一緒くたに行動させる時点で正気の発想じゃないし、外出???何がどう巡ったらそうなるんだ」
「うぇ」驚いたマンダリンはソファから器用に飛び退き、耳にできたタコをさすった。「でも恋する少年だよ?妖精さんが告げ口してくれたもん、視線が泳いでるーって」
ソノヴァは頭を抱えた。この”妖精さんの告げ口”はマンダリンが常用する免罪符だ。厄介なことに、この告げ口は決して外れないのだ……
「二人で駆け落ち、なんてされたらどうするんだ」
「それはそれで、面白い展開じゃない?妖精さんが恋路の果てまで見届けてくれるから、大丈夫だよ」
「一体全体何が大丈夫なんだ……」彼女のマイペースは、時に思いもよらぬ方法で事態をかき回す。