「何で私がルビアの発明に付き合わなきゃいけないの」
フェンザード軍・青金工房共同兵器試験場。渓谷の直線的な部分を選んで作られたそこは、基本的にはトスハイムが供与した兵器を軍が試し撃ちするための場所である。本来ここに詰めるべき知性の弾薬庫たちはどうしてか皆が皆実地でのテストを好むため、ここに来ることは少ない……今ここにいる2名を除いては。
一人はマスター・チャーチ。工房の中では最もフェンザード寄りとされる人物で、工房の開発物を軍が運用できるように調整する役をほぼ一人で担っている。動作チェックのため前線にも顔を見せるので、過労を心配されることも多いが、「美貌を保つ」ために寝る間を惜しむようなことは決してしない。
そしてもう一人はプロフェッサー・ルビア。……ある意味で、知性の弾薬庫という形容にもっとも相応しい人物である。
「不明機械の件や。氷漬けのドクターからサンプルとデータが大量に送られてきてな。どうもパルティニア北方領で大規模な会戦があったらしいんや」
「それは見ました。鼻水の痕があってキモかったんでよく覚えてます……つまり戦闘データから対策を考えようと?」
「違う《ちゃう》。ウチらは発明家で研究者やない」
「私は研究者のつもりです」
「ウチが注目したのはアレがどうやって動いてるかや。マナに頼らずどうやって動いてるかずっと謎やったが、今回新しい発見があってな。雷を発するパーツが見つかったんや」
「確かに、雷は炎のような熱を持つけど……マナや炎みたいな変換適性はないような。動力じゃなくて攻撃用パーツと考えるのが自然じゃない?」
「先入観に囚われたらあかん。未知に相対する時は心フラットにせなあかんのや。そもそもビームやボムは雷ビリビリと関係あらへんやんか」
「正論つらいです。精進します」
「そこでウチは閃いた。あの樹脂で被覆された銅や板に刻印された金は雷を伝達するものやないかと」
「確かに金属は雷を引きつける性質があるけど……」
「ほんで色々なパーツに雷流してみるとおのおのレスポンスを返しよる。これは雷で動くに違いない」
「雷を流す、ねぇ」
「仮にこれを雷動式と名付けようそして雷動機のパーツをコピーして生まれたのがこの」
ルビアは発明品──巨大な車輪とでも形容すればいいだろうか──を背に両手を広げ、自慢げな表情をチャーチに見せつけた。
「雷動ビーム噴射式パンジャンドラムや」
「過程は真っ当なのに成果がおかしい」
「今回は原点に立ち返ってドラムの全周に推進機関を取り付けてそれで回る方式を採用、まだ制御部分はよくわかっとらんからマギスフィア使っとるけど伝達系と駆動系は雷動機のコピーや。オリジナルの部品は一切使ってないオール工房製やスゴイやろルビアちゃんかわいいって言って」
「私の方がかわいい……ってそうじゃなくて。何でそういう技術試験を使い捨て兵器でやるのさ」
「パンジャンドラム作らないウチはウチやない。ほな早速転がすで ぱ ん こ ろ ? 」
車輪の外縁部に取り付けられた発振器からビームが放たれ、巨大な車輪がゆっくりと回転を始める。
「……珍しく大人しいね」
「パンジャン的にはビームを振りまいて道中に破壊と殺戮をもたらすのもやぶさかじゃあないんやけど、ビーム集束部の構成が間違うとるのか出力上げると自壊してまうんや。そこがわかるまでは我慢や」
「味方にも破壊と殺戮が振りまかれるので勘弁してください。……これを一人で作ってたわけ?」
「毎日紅茶一艘キメてるルビアちゃんにかかればこれくらい余裕や」
巨大車輪はその不安定な挙動に反して真っすぐ進み、ターゲットの石垣に命中して爆発した。プロフェッサーの肩書に違わぬ技術力が、彼女の偏執への異論を退け続けている。
「……帰ったらデータ見せてよね。光条集束なら私の方が経験多いはずだし、なにかわかるかも」
工房の天才どもは情報共有をしないから困る。チャーチは悦に入るルビアを帰路に促しながら、頑なにマナを使おうとしない機械たちに思いを馳せていた。この戦いが終わったら、この技術たちも地上に落ちてくるのだろうか……?
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