ディフォールグランデ地方は、ケルディオンの南方にある大陸、ルフェネの北端に位置する地方です。
気候は冷涼で、一年の半分以上を降雪の下で過ごします。それゆえ食糧事情が悪く、キウェートを除けば国家と呼べる大きな都市はありません。ルフェネ大陸で平野部まで積雪が及ぶ地域はここだけであるため、この雪はマナの異常によるものだという説が有力です。
北方沿岸に位置する、地方唯一の国家です。計画的に拡張され、空から見ると美しい紋様になっていることで大陸では有名です。
魔法文明時代の文化を色濃く残し、かつてブルーブラッドと呼ばれた、目を合わせるだけで民を支配できる恐るべき血筋すら健在ですが、それを免れるザイレム御三家の存在により、独裁とはなっていません。しかし、それでも貴族たちによる封建制であり、特に食糧を巡っては貴族から順に分配されるため、彼らと平民との間に大きな溝があることは確かです。
キウェートの中央には広場があり、それを囲むような環状路、さらにそこから伸びる六本の大通りと、中心地区は典型的な魔法文明様式の円形都市です。特徴的なのは、その外側に配置された三つの扇形の地区と、さらにその外側に環状配置された24の方形の地区群です。これらの地区それぞれに貴族の本家が配置されており、中心からそれぞれピス家、ザイレム御三家、フロウェン諸家と呼ばれます。立法はこれら貴族の合議によって、司法はフロウェン諸家の中から任命されるいくつかの家によって、行政はその地区に本家を持つ貴族によって行われます。
地区間にある隙間のうち、ピスに接しない地域にはスラムが形成されており、ディヴァリオと呼ばれています。
もとは開放感の創出や貴族間の衝突抑止、農林業などのために設けられた広場でしたが、その所属が曖昧なまま放置されたため、次第に無法者たちが集まるようになりました。今更帰属を話し合っても紛糾は免れない上、非合法的な活動は時に貴族の利益にもなるため、貴族の間ではアンタッチャブル扱いされています。
平民たちにとっては、法の及ばぬ治安の悪い地域であり、支配の及ばぬ自由な地域です。守りの剣の及ばぬ場所でもあり、迫害から逃れたナイトメアやアルヴなどのコミュニティもあります。
キウェートの貴族たちは伝統を重んじ、儀礼的な文化を継承しています。家をまたぐ慣例としては、ピス家の当主はザイレム御三家の者から、ザイレム御三家の当主はフロウェン諸家の者から婚姻相手を選ぶこと、貴族間での武力衝突の忌避などが挙げられます。
なお、キウェートの貴族はすべて人間です。フロウェン諸家の中には他種族との婚姻を慣例とする家もありますが、人間以外の子は跡継ぎになれず、御三家との婚姻候補にもなりえません。
中央地区を管轄し、高貴なる血を継ぐもの、それがピス家です。複雑怪奇な儀礼を擁し、その全貌を把握することは家の者といえど困難です。さらに困ったことに、ブルーブラッドを維持している儀式がどれなのかわからなくなってしまっているため、合理化もできないのが現状です。数多くの貴族の滅びを目の当たりにし、その血が全能ではないことを理解していることからその立ち回りはしたたかで、政治手腕では大陸一とも称されます。
ピス領の周囲を囲うように配置された三つの扇状の領地、それがザイレム御三家です。その配置は見方によってピスを護るようにも、囲い追い詰めているようにも見えます。「もとは一つの家であった」という体でそれぞれは分家と称され、北東の扇にイノ分家、北西にウェ分家、南にサ分家が配置されています。かつてシルバーブレイドと呼ばれた血筋の末裔であり、ピス家の"民衆を支配する力"を拒否することができるため、ピス家に対する抑止力として働いています。ザイレムは神官戦士の家系であるため、この血が薄まらず維持されているのは神の加護によるものだという説が有力です。貴族であるためやはり儀礼伝統の束縛を受けますが、戦士の家であるため実務的な儀礼が多くを占めます。
ザイレム・イノ分家
北東の領主イノ分家は、代々グレンダールを信仰し、その加護を受けています。独自の伝統として、その当主は必ず女性の神官であるという点、馬車鉄道網の管理責任を持つという点などが挙げられます。御三家の中では最も穏健派だとされており、また最もピス寄りだとも言われます。
ザイレム・ウェ分家
北西の領主です。発足当初はダルクレム信仰を掲げており、他の貴族からは最大限の警戒を受けていました。しかし人間が信仰する神としてはやはり無理があったのか、今では神官は皆無です。ですが"拒否権"は健在であり、実は隠れて信仰しているのではないかなど不穏な噂は尽きません。致死的でこそないものの、決闘により当主を決定するなど、その慣習も過激なものが多く見られます。
ザイレム・サ分家
南の領主は三剣神ユリスカロアの庇護下にあります。魔動機文明後期にはなぜか神の声を聞けなくなり大きく没落していましたが、大破局以降のいづれかの時期よりそれを取り戻し、今では代々神官を当主に任命できるまでに復権しました。その信仰からか不合理な慣習を軽蔑する傾向があり、他の貴族からは煙たがられています。一方で最も現実に即した意見を提示できる家でもあるため、没落時代もピス家からは大事にされていました。
ザイレム三領のさらに外側を、二重円を描くように配置された24の方形の領地、それらの領主がフロウェン諸家です。ピスから見た時の形状から、内側十二家を方形領、外側十二家を菱形領と呼ぶこともあります。貴族間でのパワーバランスという点では両者に差はありませんが、慣習の様式などではやはり方形領十二家に比べると菱形領十二家は外部の影響を受けやすく、流動的です。
キウェートでは冒険者稼業も、貴族と平民で大きく二分されます。貴族の冒険者は、多くは当主候補から外れた戦士、あるいは伝統により冒険者になると決められている者により構成されます。窓口はその貴族の家となりますが、ひとつの家にパーティが組めるほど冒険者が所属していることはまれで、多くの場合依頼から解決まで長い時間を要します。
一方、平民が冒険者として活動することは違法であり、そういった活動は
キウェートはケルディオン大陸とルフェネ大陸を結ぶあらゆる交易を中継する交易都市でもあります。ケルディオンは一般に帰らずの大地と呼ばれるように行ったら戻ることがかなわないとされていますが、キウェートの貴族たちが特別な航路を開拓し、キウェートとの間でのみでありますが往復が可能になったのです。ヴェルジャーヤ協商連合や名深領と定期航路がある他、月に1回ほどマギステルとの間でスカイシップによる往来もあります。
「この地には換気が必要だ。改革という名の換気が」
ピス家の現当主です。五年前、ピスの伝統からすれば異様な若さで即位した彼女は、徐々にですが様々な制度や慣行にメスを入れ、貴族運営の効率化に寄与しています。
しかし、その改革を行うために、大破局以来の頻度で“支配力”の行使があった、さらにそれをフロウェンへ直接行使したなど、その実態はかなり強権的です。そのためにザイレム家、特にウェ分家・サ分家からは「二十八家分権の原則に反しており、現在のピスは全権を自分に集めようとしている」と警戒されており、「ピスが伝統を、ザイレム/フロウェンが変化を担う」という従来の構図から逆転が生じています。
「どうしてこうなってしまったのかしら……」
ザイレム・イノ分家の現当主です。混迷を深めるキウェート情勢において、立場を明確に示せずにいる上、次期当主候補が次々に姿をくらましたため、ザイレム・イノ分家は数年で大きく求心力を落とすこととなりました。彼女自身は既に見放され、他の貴族たちの関心はケルディオン全域とのコネクションを得て凱旋したセルフィンに移っています。
「入力あっての出力です。殻にこもって視野を狭めてはいけません」――“深想”、青き瞳
「貴族は平民のためにあるべきです。神が私たちのためにあるように」――“託宣”、白き瞳
「民とその意思を蔑ろにすることはあってはなりません。ディヴァリオの民であろうと」――“影炎”、赤き瞳
ザイレム・イノ分家の次期当主です。一時期行方不明になっていましたが、高潔たる風花号のクルーとしてケルディオン大陸を巡っていたことが判明、人の身を超えた槍の腕を携えて帰ってきました。今はケルディオン特使として、ケルディオン・ルフェネ両大陸を往復する日々を送っています。
彼女は混迷するキウェート情勢の中、ケルディオン特使として飛び回り、貴族政治の改革にも賛同するなど、一見クロマ寄りの立場を取っているように見えます。しかし対フロウェン、対平民政策には意見に若干の溝があり、時折“支配力”の行使に苦言を呈することもあります。
彼女はTPOに応じて纏う雰囲気が大きく異なることで有名です。普段は深慮を窺わせる落ち着いた印象を受けますが、儀礼の場や神聖な儀式にはより神々しい姿で現れます。また、彼女自身が引けない一線に立つ時は黒炎を思わせる姿を取り、大きく感情を露にするといいます。
普段からそういった大きな変化を見ることは難しいですが、彼女の瞳の色を見れば彼女がどのように考えているか大まかに知ることができるでしょう。青ければ深想、白ければ託宣、赤ければ影炎といった具合に……ですが気をつけて。あなたが彼女の瞳を覗く時、彼女は必ずあなたの瞳をまっすぐと覗き返し、あなたが何を考えているかを見通さんとするでしょう。
「目の前で起きてる横暴を放っておくわけにはいかねェだろ」
ザイレム・ウェ分家の現当主です。実際の身長は184cmですが、彼を目にした者は口をそろえて「彼は2mを超える巨漢だった」と言います。極限まで鍛えられた肉体と格闘術が、相対した者にそう錯覚させるのだと専らの噂です。身内に対しては気さくな大将ですが、クロマのやり方は良く思っておらず、戦争も辞さないと公言しています。
「戦争など起きないに越したことはないのだ」
ザイレム・サ分家の前々代当主です。当主の座は譲って久しいですが、今なお多大な影響力を分家内外に保持しています。しばしばロンブレイグを諫めてはいますが、やはりクロマとは対立する立場にあり、水面下で何かの準備を進めているとの噂もあります。
キウェート連邦において国外との貿易を一手に引き受ける組織“ノヴィタル貿易”の社長を務めるのがザスティ・ミスリルハーツです。
人間による貴族支配の強いキウェートでリカントたる彼が外界との唯一の接点たる“ノヴィタル貿易”を掌握しているのは彼がその貴族の私生児であるからというのは公然の秘密です。
貴族の血を残すという目的のため貴族以外との結婚はタブーとなるキウェートにおいて彼、および彼の兄妹の存在は完全なるタブーでありましたしかも士族の力を受け継いでいたのですから尚更です。しかし彼はその危うい立場をを自らの才覚と人徳で切り抜け、今やその事実を盾に自らの家をコントロールするに至りました。そしてその手腕を持ってして外界との唯一の接点たる“ノヴィタル貿易”を設立しました。また政治的、経済的手腕だけでなく戦士としての実力も高く、数々の暗殺者を自らの手で返り討ちにするほどです。
現在はその手腕を駆使して精力的に働き貴族からの信頼すら勝ち取りましたが、裏では独自の戦力の構築や一部のザイレム分家の貴族などへの根回しを通じて国家体制の改革を目指していると噂されています。その強硬な態度から一部では士族を率いてのクーデターを目論んでいるとの噂もありますが、定かではありません。