#author("2020-09-29T17:18:43+09:00","","")
* 幕間「故郷との手紙」 [#qae520f7]
#author("2020-09-29T17:19:04+09:00","","")
* 銀翼のヴェクターズ 幕間「故郷との手紙」 [#qae520f7]
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「…………」セルフィンはその封筒の中身を読んで、かつてない微妙な表情を浮かべていた。実家から送られてきた手紙の内容は、挨拶と修辞を省けば以下の通り。~
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 一。こうして手紙も送れるほど娘が有名になって、私も鼻高々です。~
 二。それだけ積極的な活動をしても見つけられないとは、シルルはどこへ行ってしまったのでしょう。~
 三。きっと様々な体験をしてきたのでしょう、たまにでいいですから顔を見せて、土産話でも聞かせて欲しいです。~
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 ……行間からただならぬ圧を感じる。恐らく帰った時にはさらなる有形無形の凄まじい圧力に晒され、それを説教の代わりとするのであろう。自分の話題に炎武帝神官であることが含まれていないことなどまず期待できないし……“黒歴史”のことが知られていないことを祈るばかりだ。~
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「…………帰らないわけにもいかないですよね……」~
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 この手紙は、セルフィンが家から勘当も除名もされていない……つまり、彼女がまだザイレム・イノの一員であるという証でもある。実際旅の中で姓を名乗る機会もいくらかあった訳で、自らの決定が家の、ひいてはキウェートの意見と取られかねない立場にもある訳であり。返すがえす自らの軽率な行動を悔いるばかり……溜息と共に、セルフィンは肩に留まる蝶を見やった。~
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「でも、もう少し待っていてもらえますか」~
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 セルフィンは自らの興味の為に家を飛び出した。アイケトゥイルの遺産が揃わないうちは、まだ帰れない。土産話が不完全では失礼だろうと自分を納得させ、ようやく返信の文章に手をつけた。~

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