#author("2020-12-26T17:51:04+09:00;1970-01-01T18:00:00+09:00","","")
* 異風#2.1 A Invader [#jd4ee567]
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 照明の落ちた暗い部屋。壁一面にコンソールが並ぶ。正面の壁に据えられた、メインモニタとなる巨大なスクリーンといくつもの補助表示装置が淡い光を放っている。室の中央には多目的レーザーディスプレイ。その周囲を、やはりコンソールを備えた、巨大な円卓が取り囲んでいる。さながらどこかの基地の司令室といった様相で、現に大量のコンソールはここで働く大勢のオペレーターたちのために備えられたものだった。~
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 施設は宇宙船である。途方もない時間を費やして、様々な宇宙、数多の星々を渡ってきた。いまこの船はまた、旅の途中に見つけたある惑星に強い関心を持ち、その惑星の衛星軌道上に留まっていた。様々な角度から観測されたその惑星の姿はレーザーディスプレイに投影されている。青く、美しい星だった。~
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 この薄暗い部屋は宇宙船の中央部分に位置しており、正真正銘、船の中央管理統制室として機能している。しかしここには巨大宇宙船の中枢としての厳かな雰囲気も、飛び交う命令伝達ゆえの喧噪もなかった。コンソールに着いているはずのオペレータの姿はどこにもなく、表示装置に映った記号や数字は、勝手に変化し続けている。壊れているのではない……その装置がモニタしている制御機器が、自動的に動作しているのだ。~
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 侵略者たちの宇宙船は高度にコンピュータ化されていた。船内の環境は様々なセンサによって常時モニタされ、そこに生きる人間にとって最適であるよう設定されている。しかしその最適を保つのに、もはや人間のオペレーターなど必要ではなかった。用済みの人間たちはオペレーションルームから排除された。~
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 それは高度になりすぎたコンピュータのいわゆる暴走とその結果、というわけではなかった。他人は信用できない、余計な人間は必要ない、この船は自分とコンピュータたちだけで完全に維持管理可能で、その方が遙かに効率がよい、そうすべきだ、そのように望む、人間がいたのだ。高度なコンピュータたちは、自らの父とさえいえるその人間の意図を忠実に汲み、実行したのだった。~
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 白衣をまとった男が一人、円卓に備えられた一脚に腰掛けている。卓に肘を着き、気怠げにモニタ群を目で追っていた。~
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 男の名はシフといった。~
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「信じられないね……まさか戦術管制を任せたヤツが、敵の主力と撃ち合いを始めるなんてさ。あいつは自分の立場を理解していないのか?」~
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 サキの力は貴重だ。彼女の戦術管制の有無で末端の戦闘機械たちの運用効率が大きく変わる。最高の情報処理能力を有するサキは、惑星環境精査の中核を担ってもいた。その存在には直接的な戦闘能力だけでは計れない、戦略的に極めて高い価値があるのだ。もう一人偵察・管制能力を持つナナコを事故で失った今、彼女は絶対に失うわけにはいかない。そんな彼女が最前線で敵と対峙するなどもってのほかだった。~
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「あの状況でなぜ戦闘に突入するんだ。回避するだろう、普通。俺はあいつに交戦を許可した覚えはないし、そもそも近づきすぎなんだよ……くそ、悔しいな、まんまと返り討ちにされてさ」~
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 静まり返った円卓で、彼は誰にともなく文句を吐いた。誰も聞いていなくとも、言葉に出すことで気を落ち着かせることができる。アンガーマネジメントというものである……~
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「……世話が掛かりすぎる」~
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 シフは、ダイナミックミッションプランナーをはじめとする各種作戦システムに命令を入力する分には、不満は感じなかった。それは確かに必要な操作だからだ。しかし手間暇掛けて造りあげた部下たちにまで同じことを要求されるとなれば、これはたまったものではなかった。一言命じればその通り勝手に戦って、勝手に勝利して、勝手に戻ってくるよう、造ったつもりだったのだから。~
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 現実はそううまくは運ばなかった。彼女らの戦闘能力は十分に高い。だが……つまるところ、子の心は親の筋書き《プラン》通りには育たなかったのだ。心を持つ相手を思い通りに使役するのは、コンピュータを相手にするよりずっと骨が折れた。あらゆる行動を命令によってがちがちに縛ることも不可能ではなかったが、やはりある程度は自分で判断させねばわざわざ人として造った意味がない。冗長性はイレギュラーに対する強力なカウンターとなり得るのだ。で、そのように振る舞う彼女らはしばしばシフの思惑を逸脱した。ままならないものである。~
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 それでも彼女らは強力で、少々の扱いづらさをおしてでも運用する価値があった。……なによりシフは、自分が苦労している裏でひまを持て余している部下がいるというのが気に食わない。~
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「そろそろ働いてもらわないとな」~
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 これほど美しい星を前にして、いまさら戦力を温存する必要もなかった。~
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[[tales]]
#author("2022-02-01T21:44:52+09:00","","")

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